【日本遺産】飛騨匠の技・こころ 〈木とともに、今に引き継ぐ1300年〉 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【日本遺産】飛騨匠の技・こころ 〈木とともに、今に引き継ぐ1300年〉

日本遺産を旅する 岐阜県【高山市】

■近世・近代の飛騨2大匠  水間一門と松田一門

民家建築の中に息づく「飛騨匠」が残した技術

 寺社建築で名を馳せた「飛騨匠」だが、明治以降彼らの技は民家建築の中で更に花開くこととなる。

 近世・近代に活躍する大工一門の代表格が水間一門と松田一門だ。高山市内には、お互いが競いあって建てた寺社が多く残っている。水間一門は、飛騨権守(ひだごんのかみ)・藤原宗安の直系とされ、伝統的な建て方を特徴とし、社寺建築を得手とし、代々水間相模守(さがみのかみ)を名乗った。一方、江戸時代前半より活躍したとされる松田一門は優れた彫刻を施す流派で、弟子の中には屋台彫刻の名手も出た。

「これまで機能性を求められた住宅に、新しくデザイン性という境地を切り開いたのがこの2つの一門です。例えば、入口の脇に配置された柱の間隔を一間と一間半にするなど高山の町家の建築物にはシンメトリーのものがありません。すべて非対称の造りになっています。この地の伝統を守り、また、吹き抜け空間を民家のなかに取り込みました。」(前出・田中彰さん) 。

 彼ら一門の流れをくむ近代民家の代表作には、吉島(よしじま)家住宅や日下部家住宅、田上(たうえ)家住宅などがあるが、いずれも良材を匠の優れた技術で仕上げて、長く大切に使えるよう工夫されている。

「水間一門の西田伊三郎が建てた吉島家住宅を見ると、棟まで通った大黒柱に大梁がかけてあり、繊細な女性的な空間を演出しています。一方、松田一門の川尻治助が建てた間口の大きい日下部家住宅では、大胆に渡した大梁を大黒柱が受けており、いわば男性的な力強さが表現されています。いずれも『飛騨匠』ならではの技と大空間を再現する点においては共通していますが、そうしたところにそれぞれの特徴が表れているといえるでしょう。」

 という同氏の言葉からも、卓越した技術と感性において、甲乙つけがたいものであることがうかがえる。

◉伝統を重じた「飛騨匠の祖」飛騨権守・藤原宗安直系の系譜

 

◉豪壮な空間と彫りが得意な江戸期前半から活躍した大工の系譜

次のページ現在まで受け継がれた伝統工芸に触れる

KEYWORDS:

オススメ記事